●『記憶の澱』by masayon(蛭魔×マルコ パラレル) - 3/3

「アァ? テメー阿呆か糞睫毛。俺が、テメーを探して来たに決まってんだろーが。偶然なんざひとつもねえ」
ニヤリ、笑ってやると、マルコは、驚いた瞳をそのままに、信じられない、といった表情で蛭魔を見た。
あのとき、まるく柔らかだった頬も、甲高かった声も、今はその面影を留めていないけれど。
湖水の色の瞳――蛭魔が、もう一度見たいと願ったそれは、あの時とまるで同じで、だから蛭魔は一瞬のほんの半分ほど、困惑する。あの夢の少年を追いかけてここまで来た。その、隔たった時間の長さが消失したかのような錯覚。かるい眩暈。
「あんた――あれから? わざわざ? 俺を探したってこと?」
「無論、15年間ずっとじゃねえ。だが、イタリアで仕事してりゃ嫌でもテメェらの組織にぶつかるからな。あん時の借りもある。だから、探した」

半分は、嘘であった。
本当は、この15年間の蛭魔の情報屋としての仕事は、元をたどればすべてここに繋がっていると言っても過言ではなかった。無論、もっと早い段階でマルコに近づくことは可能であったし、ここまで己の身を危険に晒さずとも、方法はいくらでもあった。けれど、今、マルコが実質的に組織の実権を握ったタイミングでなければ、この情報は意味を成さない。そうでなくても、マルコはそれを欲しがっただろうし、そのマルコの心理を利用して、価値を吊り上げることも出来た。

それでも、蛭魔妖一が見届けたかったのは、この、円子令司という男に、この情報を与えた、その先であった。15年前、自分を躊躇わずに撃ったあの子供のことを調べれば調べるほどに、蛭魔は円子令司という人物に囚われていった。何故なのかは解らない。蛭魔自身、この執着心が、どこから湧いてきてどこへ向かうのか、さっぱり見当がつかないのであった。これを恋と呼ぶのであれば、それは、酷く熱烈な恋情だ。
「そりゃまた――ご苦労さんっちゅう話。あんた、しつこいって言われない?」
「ケケケ! お褒めにあずかり光栄だ」
「……褒めてないっちゅう話」
呆れたように眉を下げると、マルコは不意に手を伸ばし、蛭魔の首筋に触れた。
「んー、まだ結構熱あるな。あんた、一人で動ける?」
ひやりとした、乾いたてのひらの感触に、喉が鳴りそうになるのを堪えて、
「問題ねェ」
と返すと、
「だよねえ」
マルコは少し困ったように笑って、やにわに蛭魔の手首を掴んだ。

ガチャリ。
金属の、冷え冷えとした重さ。
咄嗟に抵抗が出来なかったのは、恐らく、矢張り、熱の所為なのだろう。

「まあ――この程度じゃ気休めみたいなもんだろうけど、一応、ね。俺、これから出掛けるし。あちこち動き回って俺の部下に撃ち殺されでもしたら迷惑だし」
鉄製の手枷。繋がれた鎖が、じゃら、と鳴る。
確かに、普段の蛭魔にとっては、この程度の枷などはなんの意味も持たぬだろう。
「舐められたもんだな」
「何? もっと頑丈な奴にすりゃ良かった?」
立ち上がりかけながら苦笑するマルコを、蛭魔は
「そうじゃねえ」
と睨みつけてやる。
「俺の情報網舐めんじゃねえ、っつってんだ。テメェがこの件に関しては組織に隠れてこそこそ動き回ってんのも、テメーの叔父貴にバレりゃ面倒なことになんのも知ってる。つまり、俺の存在はテメー以外には何の価値もねえ。んな中で手負いでうろうろするほど俺も耄碌してねえ」
「ああ!」
マルコはその言葉に、はじけるように笑った。
「悪ぃ悪ぃ、あんたを甘く見たわけじゃねえよ。ただ、あんたがうちの組織の反対派と繋がってないって証拠もないしね。あんただって、痛くもない腹さぐられるより、俺が帰るまでそこで繋がれてた方がラクだろ。風呂とトイレはそこ、冷蔵庫に食べるもんは入ってる。夜には戻る」

蛭魔の視線を遮るようにくるりと肩にジャケットを回しながら、マルコはかろやかに背を向けて出て行く。その後ろ姿に、手を伸ばしたくなる、この衝動の意味が蛭魔自身にも解らない。灼けつくような、癒えることを知らぬ渇き。これを恋と呼ぶのであれば――それは。

 

■あとがき

また酷いトコで終わってすみません…
気が向いたらまた続くこともあるかもしれません。
それらしいことを書いてはいますが、
実は背景事情とかまったくまだ考えていません。
「過去に一度だけ会ったマルコが忘れられなくて追って来る蛭魔」
が書きたかっただけなので、
もうなんかこう、自分の萌えるところだけ先に書いてる感じです(笑)

今回は蛭魔さんが弱ってる(身体的に)ターンなので、
じつに愉しく書きました!!!!(←変態)
弱ってるトコに手枷が重くてよろよろしてるのとか
想像するだけでご飯三杯くらいイケます☆

こんな「masayonが楽しいだけのおはなし」に
ここまでお付き合いくださいましてありがとうございました!!!

 

masayon